僕は、新卒1年目にして2度会社を退職していた。
2社とも期間は1ヶ月で退職している。
そこで僕は、一旦就活を辞め、バイトをスタートさせた。
焼肉屋さんと、デパート内のレストランだ。
日中は、デパートに買い物に来るマダムを相手に料理を運び、夜は仕事帰りのサラリーマンや学生を相手に焼肉を提供する日々を送っていた。
そんなある日、電話がかかってきた。
相手は、1ヶ月ほど前、転勤で東京に行っていた友人だった。
近況を聞かれたので、毎日焼肉を提供していることを伝えた。
「それはよかった」
彼は満足してくれた。
話を聞くと、東京は楽しいみたいだ。
福井とはまるで違うと力説された。
そして
「東京来いよ。」
彼は僕に上京をすすめてきたのだ。
さすがにその場で上京を決断することはできなかった。
翌日、僕は荷物をまとめていた。
迷っている時間はなかった。
少しでも環境を変えるしかなかったのだ。
バイト先に辞めることを伝えに行くと、もちろん理由を聞かれたので、
「就職が決まりました。」と伝えた。
店長は微笑んだ。
本当は、就職が決まったんじゃなくて、東京行きが決まったなんて僕には言えなかった。
出発前、ATMに行き全財産を確かめに行った。
7万
全財産7万を握りしめ、僕は夜行バスに乗り込んだ。
もちろん、東京へ行っても仕事も住む場所も何も決まっていない。
少し不安もある。
そんな不安をよそに、バスは新宿へと走り出した。
真っ暗な車内で、僕はそっと目を閉じた。